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24時間生配信の離島軟禁オーディションで、BL演出をやってみた結果
24時間生配信の離島軟禁オーディションで、BL演出をやってみた結果
مؤلف: 秋宮千砂

第1話 未練とBL営業

مؤلف: 秋宮千砂
last update تاريخ النشر: 2026-05-14 20:35:25

 あの夜のことは、忘れられない。

 高層階の窓の向こうに、東京の夜景が広がっていた。ガラスに映る光が、まるで星みたいに揺れていたのを覚えている。

 背後から、低く甘い声がした。

「颯馬、俺のこと好きなんだろ?」

 振り向くより早く、腕を引かれた。

 体が触れる距離に引き寄せられて、息がかかるほど近い。

「……ねえ、俺を抱いてみない?」

 その言葉が、冗談じゃないことくらい、わかっていた。

 細い指が、俺の顎に触れる。逃げる理由なんて、どこにもなかった。

 憧れて、焦がれて、やっと手に届いた人だったから。

 ――あの夜、俺は初めて、炎ほむらさんを抱いた。

 触れた体温も、息遣いも、全部、焼き付いて離れない。

 あの時、確かに思ったんだ。

 これは恋だって。

 一生に一度の、本物の恋だって。

 ……でも。

「何をそんなに本気になってるんだよ」

 ベッドの上で、炎さんは笑っていた。

「セックスなんてただの娯楽だろ? 一人の相手に縛られる必要なんてない」

 その顔は、あの夜と同じくらい綺麗で――

 同じくらい、どうしようもなく冷たかった。

 俺の知らないところで、何人もの男と関係を持っていたことも、

 問い詰めても、悪びれもしなかったことも、全部。

 ……全部、知ってしまった。

 あの時、終わったはずだったのに。

---

第1話

 穏やかな潮風が、成田颯馬なりたそうまの頰を優しく撫でた。

 船着き場のある小さな集落から車で十分ほど移動した先に、炎ほむらプロダクションが用意した合宿所はあった。元は緋崎炎ひざきほむらの別荘を改装したというその建物は、周囲に民家も商店も何もない静かな離島に佇んでいた。庭の芝生の向こうには、青く広がる水平線がどこまでも続いている。

 ここが、これから三十日間、十四人の候補生たちが過ごす場所だ。

 『炎ほむらプロジェクト』——音楽プロデューサーである緋崎炎が手がける、ボーイズダンス&ボーカルグループの最終選考合宿。オーディションの様子は動画サイトで二十四時間生配信され、最終日に視聴者投票で合格者が決まるという、異例の企画だった。

 食堂に入ると、そこに緋崎炎プロデューサーが立っていた。

 三十五歳とは思えない若々しい顔立ち。中性的でシャープな美貌に、妖艶な色気がまとわりついている。黒いシャツの襟元を少し緩め、細い指で軽く髪をかき上げる仕草さえ、洗練された艶やかさを感じさせた。

 炎は静かに微笑み、集まった十四人を見回した。

「ようこそ、最終選考まで勝ち進んだ諸君。まずは大事なルール説明をしておくよ。この合宿所は二十四時間生配信される。トイレと風呂と脱衣所以外、ほぼすべての場所にカメラが設置されている。寝室にもカメラはあるが、ベッドはカーテン付きの二段ベッドだから、内側はプライベートが保たれている。それと、君たちのスマホは預からせてもらう。代わりにこちらで用意した物を使ってくれ。外部との連絡は禁止しないが、内容はすべてスタッフに監視されてるので、覚悟しておいてくれ」

 炎の言葉が終わった瞬間、食堂がざわついた。

「え、マジで二十四時間!?」  

「配信するとは聞いてたけど、スマホも没収?」

「寝室にもカメラあんの!? マジかよ……」  

「カーテン付きのベッドって言っても、声は聞こえるやんか。俺、寝言言ったらどないしよう」

 颯馬も内心で驚いていた。完全にプライベートなんてないんだな……。

 炎はそんな皆の反応を予想していたように、穏やかに続けた。

「さて、自己紹介を始めよう。みんな、予選会場で顔は見てるかもしれないが、改めて名前と、自己PRを簡単に話してくれ」

 一人ひとりが順番に立ち上がり、自己紹介を始める。

「龍也です。特技はラップとボイパ。あとドラムも叩けます」  

「響です。クイズが得意で、資格とか結構持ってます」  

「まひろです。YouTuberやってました。美容には結構気を使ってます」  

「ミンソクです。韓国出身ですけど、小学生からずっと日本に住んでます」

「彼方です! 特技はパルクールです! アニメ大好きで、アニメの話になるといつも熱くなってしまいます!」

そして、

「水琴みことです。京都出身です。子役俳優やってました。よろしゅうに」

 柔らかそうなピンクがかった金髪が光に透ける。中性的な整った顔立ちに、長いまつ毛、二重まぶたの大きな目。

 京都弁の柔らかい響きが、颯馬の耳に残る。意外と低い声だ。予選会場で見かけた時から綺麗な顔のやつだと思っていたが、こんな声してたんだな。

 颯馬の番が来た。彼は立ち上がり、軽く頭を下げた。

「颯馬です。ブレイキンの大会で優勝したのがきっかけで、炎プロダクションにスカウトしてもらってレッスン受けてました」

 自己紹介が一通り終わった直後、ふと炎の方に視線を向けた。

 炎は皆を見守りながら穏やかな笑みを浮かべていたが、その瞳が一瞬、颯馬を捉えた気がした。

 何度も颯馬を熱く焦がしてきた、鋭いけれど妖艶な色気のある大きな目。

 胸が締め付けられるような痛みに、颯馬は唇を噛み締めた。

 もう二度と、あんな風に誰かに本気になって傷つきたくない。

「次は寝室の部屋割りを発表する」

 物想いにふけっていた颯馬は、炎の声で我に返った。いつの間にか十四人全員の自己紹介が終わっていた。

 壁掛けのモニター画面に、部屋割り表が映し出される。

「1号室は颯馬、水琴、彼方、そら、日和の五人だ。2号室は響、龍也、瞬多、凱、ミンソクの五人。3号室はカゲトラ、まひろ、葉月、イッセイの四人。ちなみに、みんなの荷物はすでにスタッフが部屋に運んであるよ」

 その後、スタッフにスマホを没収され、代わりのスマホが配られた。

 次に、建物の中を案内され、いろいろと説明を聞かされる。

 最後に二階に上がり、寝室の前で一旦解散。夕食の時間まで休憩とのことだった。

「これって軟禁じゃね? マジでここ周りに何もねえし、30日間ずっと監視されてどこにも行けねーとかさあ」

 スタッフが去った後、早速不満を漏らし始めたのは、金髪の龍也だ。眉に剃り込みが入っており、耳には複数のピアス、派手な柄のアロハシャツに、腕には小さな龍の形のタトゥー。だが比較的小柄で華奢な体格なので、怖い感じはしない。まるで中学生のヤンキーがイキっているみたいだな、と颯馬は思った。

「龍也くん。音声も配信されてるけど、いいの?」

 響が心配そうに声をかける。合宿参加者に配られたプロフィールには、確か東大卒だと書いてあった。アーティストに学歴なんて必要ないのに、なんで東大なんて行ったのか、勉強が嫌いな颯馬には理解できなかった。

「あぁ? 関係ねーし。俺は思ったことはハッキリ言わねえと気が済まねえんだよ。生配信とかどうでもいい」

「好感度下がっても知らへんで〜」

 笑いながら関西弁で口を挟んだのは、大阪出身の瞬多だ。彼はラップバトルU-22全国大会の優勝経験者らしい。

 いろんなやつがいるな、と颯馬は改めて思った。

 ここにいる者は全員、オーディションで戦うライバルでありながら、同時に未来のグループメンバーになるかもしれない相手なのだ。できれば仲良くなりたいな、と颯馬は思う。純粋に。

「俺、トイレ行ってこよ」

 誰に言うでもなくそう呟いて、颯馬は集団から離れた。

 トイレは各階にあり、ドアを開けると中に個室が三つ。大きな鏡の前に洗面台も三つ並んでいた。

 用を済ませてちょうど手を洗い終えた時、水琴と名乗っていたメンバーが入ってきた。

 水琴は颯馬の顔を見るとニコッと笑顔を浮かべ、近付いてきた。そして、颯馬の耳元に顔を近付け、小声で囁いた。

「なあ、颯馬くん。俺とBL営業、せえへん?」

「BL営業? 何だよそれ」

 聞いたことがない言葉に、颯馬は眉を顰めた。

「知らへんの? BLはボーイズラブの略やん。男の子同士で恋愛してるように見えるように振る舞うことや。アイドルグループとかボーイズグループでよくやってるファンサービスの一種ってとこやな」

 颯馬は一瞬、息を飲んだ。男同士の恋愛——。炎の顔が脳裏にチラつく。

「それが何でファンサービスになるんだよ?」

「ボーイズグループのファンには、BLが好きな女の子も多いんやで。綺麗な男同士でイチャイチャしてるん見て喜ぶんや。せやから俺らもカメラの前でラブラブな感じを演出したら、視聴者のみんなに喜んでもらえるやろ」

 水琴の整った顔が近い。柔らかいピンクがかった金髪から、ほのかに良い香りがした。

「せやから、な、やろ?」

「……なんで俺が」

「颯馬くん、かっこええんやもん。俺の好きなタイプやから」

 水琴は意味深な視線で颯馬を見つめ、ニコッと笑った。

「お前、男が好きなの?」

「特にそういうわけやないけど。男とか女とか、あんまり気にしたことあらへん」

「ふーん」

 興味ない態度を取る颯馬を見て、水琴はさらに続けた。

「颯馬くんもこのオーディション受かりたいやろ? せやったら視聴者票取るための戦略は考えへんとあかんよ」

「視聴者票って。ホントに好き合ってるわけでもないのにBLのふりして票集めるなんて詐欺じゃん。嘘は良くないんじゃないの?」

 颯馬は思ったことをそのまま口にした。人を騙して点数稼ぎしようなんて良くないと思った。

「詐欺やないで、演出や。今の時代みんなやってることやし、見てる人たちもフィクションやって理解して楽しんでるんやで」

「……そういうもんなのか?」

「うん。そういうもんやで。エンタメの一種や」

 颯馬は少し考えてから、答えた。

「いいよ。やろう。それで視聴者が楽しんでくれるんなら」

 水琴は「やった!」と小さくガッツポーズをして喜んだ。その無邪気っぽい仕草と表情が、なんだか可愛いな、と颯馬は思った。

 視聴者を楽しませたい。その気持ちは嘘じゃない。同時に、人気を得たい。注目されたい。オーディションに合格したい。それも本当だった。アーティストになるのは幼い頃からの夢だった。

 だけど、水琴の提案を受け入れた一番の理由は——

 あの人に。炎さんに。俺が他の男と恋愛してるところを、見せたかったから。

 それは、もうアンタのことなんか何とも思ってないっていう、あの人への当てつけ。

……なんてな。未練タラタラだよな。

 大きな窓の外では、夏の始まりを告げる眩しい陽射しが、濃緑の芝生を照らしつけていた。

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